拡張型⼼筋症について
健康な心臓の見た目はラグビーボールのように先端が少し細くなっていますが、拡張型心筋症が進行すると次第にサッカーボールのように膨張していきます。拡張型心筋症では、心筋が薄く、大きく膨らんで、収縮力や拡張力も下がります。約2割が家族性のものと言われていますが、明確な原因が分からないため根治治療は心臓移植に限られます。しかし、最近では薬物療法が進歩したため、心臓移植が必要になるケースは非常に稀です。
拡張型心筋症の症状
拡張型心筋症は比較的ゆっくりと進行するとされており、その変化に体や心臓が順応できている限りは特段の症状が起こらない場合もあります。
しかし、心筋症が進行して心不全(血液を届けるポンプ機能で問題が起こる)を発症すると、全身で栄養や酸素が足りなくなります。
それによって、呼吸のしづらさ、疲れやすさ、手足の冷え、足のむくみなど日常生活にも支障をきたす複数の症状が起こります。
拡張性心筋症の検査
拡張型心筋症の診断では、心筋症を合併する別の疾患(弁膜症や高血圧など)の可能性を排除することで確定診断を下します。診断に不可欠な検査としては、心エコー、心電図、胸部レントゲンなどがあり、近年は心臓MRIを実施することもあります。
心電図検査
心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の可能性を排除します。
また、心不全で起こる不整脈の併発などを確認します。
採血
心不全の基準となるBNPなどを確認し、病態管理に活かします。
また、甲状腺や貧血など心臓に影響を与える別のデータもチェックします。
心臓エコー検査
心臓エコー検査では、血流の異常の有無、心臓の動きなどをチェックします。
拡張型心筋症に典型的な心臓の拡大、心筋が薄くなる、心室内血栓、弁膜症の併発有無などの所見を確認します。
胸部レントゲン検査
心臓の拡大を画像に映し出します。また、胸水や肺うっ血など、心不全で起こる所見をチェックします。
心臓CT
心臓CTは、血管の狭窄や冠動脈の走行などをチェックし、冠動脈疾患の可能性を取り除くために行われます。
心臓カテーテル検査
手足の付け根の血管などからカテーテルを入れ、心臓の血管の状態をその場でチェックする検査です。
血管に造影剤を注入し、レントゲン撮影を実施すると写真のように血液が流れているところは造影剤が映って黒く見えます。
心筋生検目的や冠動脈疾患の可能性を排除するために行われます。
拡張型心筋症の治療
原因が分からないため、不整脈や心不全などの治療を中心に実施します。
高度な治療を要する場合は、連携先の高度医療機関にお繋ぎします。
- 心不全に対しての治療
- 不整脈に対しての治療
- 血栓・塞栓症に対しての治療
- 心臓移植
1.心不全症状に対しての治療
基本的には生活習慣の見直しや薬物療法を行います。心臓の負荷を軽減したり、既に起こっている自覚症状を改善することを目標とします。効果には個人差があるため、こまめに検査を受けることが必要です。お薬で治療効果が十分でない場合は、外科的治療や心臓再同期療法(CRT)も検討します。
心不全症状
- 息切れ
- 動悸
- ふらつき
- 胸痛
- 不整脈
- むくみ
お薬
心臓を保護するお薬 | ホルモンの分泌や自律神経をコントロールし、心臓の過剰な運動を防ぎます。 |
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抗凝固薬 | 血液の凝固を起こりづらくし、心臓に血栓が生じないようにします。 |
利尿薬 | 過剰な水分を身体から出すことで、心臓の負荷を軽減します。 |
降圧薬 | 血圧を低下させることで、心臓の負荷を軽減します。 |
抗不整脈薬 | 不整脈によって起こる動悸などの不快症状を軽減します。 |
心臓再同期療法(CRT)
心臓はポンプ機能によって血液を送り出しますが、心不全を発症した心臓の筋肉はポンプ機能が複数の原因で弱くなります。心臓は球体状の臓器であり、球体全体が同じタイミングで収縮してスムーズに血液を運んでいますが、心不全を発症した心臓の筋肉は同じタイミングで収縮することが難しくなる場合があります。CRTは、このように同じタイミングで動けなくなった心臓の筋肉を元の状態に戻す治療です。
補助人工心臓(VAD)
補助人工心臓 :Ventricular Assist device (VAD)とは、深刻な心不全状態になった心臓の代替として、血液循環を促進するポンプ機能をサポートする医療機器のことです。この機器は手術で心臓に直接設置しますが、術後に回復すると、機器を付けた患者様もあまり不自由なく活動することが可能です。
適応
体外設置型補助人工心臓は、心臓移植の適応の有無に関係なく使うことが可能ですが、植込み型の場合は基本的に心臓移植の承認を受けた方だけが使うことができます。
2.不整脈に対しての治療
拡張型心筋症では複数の合併症が生じますが、不整脈もその一種です。抗不整脈薬を使った治療や、突然死を引き起こす心室細動や心室頻拍に対する植込み型除細動器(ICD)などの治療法を行います。
3.血栓・塞栓症に対しての治療
心房細動などの不整脈を併発すると心内血栓形成が起こる危険性が上昇します。この血栓が脳の血管で閉塞すると脳梗塞が起こりますが、心臓ではどちらかと言うと大きめの血栓ができるため、脳梗塞の病状も深刻になりやすい傾向にあります。こうした血栓が生じることを防ぐためには、抗凝固薬などのお薬の服用が有効です。
4.心臓移植
1~3の治療法を行っても、病状が進行し重篤化した方へ行うことがあります。