たこつぼ心筋症

たこつぼ型心筋症について

たこつぼ型心筋症

心臓は、心筋の働きによって拡張と収縮を反復することで、体中に血液を届けています。心臓の内側は、左心房、左心室、右心房、右心室という4つの部屋でできていますが、たこつぼ型心筋症は左心室の心筋の働きに問題が生じます。

基本的に、血液を体中に届ける際は、左心室の心筋全体で収縮が起こりますが、たこつぼ型心筋症では左心室の先端にある心尖部の心筋が機能しなくなる一方で、上部の心基部の心筋が過度に収縮します。この際の左心室の形状が、たこ漁で使用される「たこつぼ」に見えるため、たこつぼ型心筋症と呼ばれています。たこつぼ型心筋症の壁運動異常は、名称の元となった基部過剰収縮と心尖部収縮障害が特徴的であり、全体の80~90%に及びますが、近年は壁運動異常のほとんどが心室中隔部・心基部型である症例や右室型である症例も確認されています。

たこつぼ型心筋症を
発症しやすい人・状況

たこつぼ型心筋症は高齢の閉経した女性が発症しやすく、男女比は1:7となり、発症年齢の平均は男性で65.9歳、女性で68.6歳と言われています。また、夏場に発症することがほとんどで、朝方に発症しやすいと言われています。

たこつぼ型心筋症の原因

発症原因は複数考えられ明確なものは不明ですが、肉体的・感情的ストレスによって発症する傾向にあるため、ストレスと関係する交感神経の異常が影響すると言われています。女性では感情的なストレス(虐待や親族の死、子どもの離婚、口論、大病の診断など)、男性では肉体的なストレス(脳卒中や急性腎不全、感染、急性呼吸不全、術後など)によって発症すると言われており、また地震や洪水などの自然災害が起こった際に発症が多くなりますが、はっきりとした原因が分からないケースも3割程度あるとされています。さらに、発症原因による予後の違いとして、感情的なストレスによって発症したケースの方が肉体的なストレスによって発症したケースよりも予後が良好と考えられています。

たこつぼ型心筋症の症状

  • 動悸
  • 胸の痛み、圧迫感
  • 呼吸困難
動悸 胸の痛み、圧迫感 呼吸困難

上記のような急性冠症候群(急性心筋梗塞)とよく似た症状が急に起こります。
また、発症してすぐの血液検査や心電図では急性冠症候群と似たような変化が確認できます。しかし、たこつぼ型心筋症では、心臓に栄養を届ける血管である冠動脈では問題が見つからず、特段の治療を行わなくても回復することも少なくありません。したがって、急性冠症候群との正確な区別が必要です。心エコー検査や心電図検査のみでは急性冠症候群との鑑別が難しいため、心臓カテーテル検査で冠動脈の血流に異常がないかをチェックしてようやくたこつぼ型心筋症の確定診断となります。

たこつぼ型心筋症の治療

たこつぼ型心筋症そのものは特別な治療法が存在せず、一般的には時間が経って自然治癒するまで経過観察を行いますが、合併症が起こることも稀にあるため、通常は約1週間の入院が必要です。合併症としては、左室流出路狭窄や全身の血栓塞栓、心室内血栓、急性心不全、心破裂、心室頻拍や房室ブロックなどの不整脈が挙げられます。院内死亡率は全体で約4.2%とされており、死因のほとんどは発症を引き起こす基礎疾患が原因となる非心臓死であり、死亡例の81.4%に呼吸不全や急性腎不全、非心臓手術、脳卒中などが関係していると言われています。心臓病の原因のほとんどは、全身塞栓症と心原性ショックとされていますが、心破裂が原因となることも稀にあります。基礎疾患の有無で死亡率を比較すると、基礎疾患がない方の死亡率は1.1%、深刻な基礎疾患を持つ方は12.2%と言われています。自然治癒する場合は、機能しなくなった心尖部の心筋も次第に機能するようになり、検査所見や収縮異常は約1〜2週間、最長でも数ヶ月程度で健康な状態に戻ります。なお、胸痛などの症状は、大抵は発症当日に自然治癒します。長期予後は健康な方と大差ないと言われていますが、1割以下の確率で再発するリスクもあります。