大動脈解離の前兆は
起こるのか?
大動脈解離は、特段の前兆なしに突如として「背中や胸に強烈な痛み」が生じて発症します。非常に稀ですが、痛みなどの症状が起こらないこともあります。また、解離が進行すると、痛みが次第に背中や胸からお腹へ移ったり、血流障害によって痙攣や失神などの意識不明状態となって、病院へ搬送されたりすることも珍しくありません。
急性大動脈解離の症状
- 背部や胸の痛み
- 失神
- 腹痛
失神などの意識不明状態となって病院へ搬送され、「検査の結果、急性大動脈解離と分かった」という方は珍しくありません(10〜15%程度)。突如として発症し、急に進行して亡くなることがこの疾患の怖いところです。
また、背中や胸の症状が起こる方が約50〜60%と考えられていますが、「言い表せないくらいの痛み」や「バットで殴られたような痛み」など、痛みの程度が強いことがほとんどです。
大動脈解離
(だいどうみゃくかいり)
について
大動脈は心臓から体中に血液を送る体内で最大の血管であり、胸部から腹部にかけて通っています。
大動脈の壁は3層からできており、内側から「内膜」「中膜」「外膜」となっていて、ベニア合板のように張り付いています。
大動脈解離は、大動脈の中膜が2層に分離することで、離れた部分から内側に血液が流入し、通常の血流とは違う「別の血流」が生じた状態のことです。
外側にあるのは外膜のみであるため、いずれ破損するリスクがあります。
特に、心臓の出口付近の大動脈(上行大動脈)が解離すると、命に関わる合併症が起こるリスクが高いため、なるべく早めに専門医を受診して緊急手術を受けなければなりません。
なお、大動脈解離は、夜より日中(特に6時〜12時までの午前中)、夏より冬に発症しやすいとされています。
大動脈解離の種類
大動脈解離はStanford A型とStanford B型に大別されます。
- Stanford A型:上行大動脈で解離が起こるもの
- Stanford B型:上行大動脈で解離が起こらないもの
通常、心臓付近の大動脈(上行大動脈)が解離するA型では外科的治療を行い、上行大動脈が解離しないB型では内科的治療を行いますが、最後は患者様それぞれの病状やリスクを基に適切な治療法を医師が検討します。
大動脈解離の原因
大動脈解離は「中膜の剥離」が原因で生じますが、剥離する明確な原因は不明です。
なお、次のような原因が長期間続くと、中膜が弱体化する(壊れやすくなる)恐れがあります。
ストレス・遺伝的疾患・喫煙
先天的に血管壁が壊れやすい「マルファン症候群」などが挙げられます。
大動脈解離の検査・診断
大動脈解離の初期診断では、CT検査や超音波検査を実施します。他にも、合併症が起こっていないかをチェックするためにレントゲン検査、MRI検査、心電図なども必要があれば行います。なお、命に関わるリスクもあるため、早急に検査・診断を行うことが重要です。CT検査をする時間がない場合は、超音波検査のみで診断を下し、緊急手術をする場合もあります。
大動脈解離の治療
上行大動脈で解離が起こるStanford A型では、手術をしないと発症後48時間以内に50%程度の方が亡くなるというデータもあります。解離が起こらないStanford B型では、入院で血圧をコントロールすることが基本ですが、強い痛みがなかなか治まらない場合や、急な大動脈の形態変化、臓器への血流障害などが起こっている場合は、外科的治療も行うことがあります。
大動脈解離の治療後の注意
広範囲で解離が起こっている場合は、解離した全ての血管を人工血管に変えることは困難であり、解離状態を残す場合もあります。したがって、解離の再発を防ぎ、解離によって生じた偽腔(もう1つの血流)が広がっていずれ壊れないようにするため、術後にしっかりと経過観察する必要があります。
当院では、大動脈解離手術(治療)後のケアとして、脂質異常症などの生活習慣病をはじめとする生活管理や血圧管理を専門科と協力しながら実施します。
退院後に注意すること
大動脈解離の再発を防ぐには、生活管理と血圧管理をしっかりと行うことが重要です。日々の生活では以下のような点に気を付けてください。
- 毎日、血圧測定を行う
- 重いものを持つことは避ける
- トイレでいきまないようにする
- 定期的・継続的に通院する
- 定期的に1日30分程度軽いウォーキングをする
- お風呂の40℃にして入浴時間は10分以内にする
- 冬は部屋と水回り(トイレ・お風呂)の温度を揃える
- 夏は部屋を冷やしすぎない
大動脈解離の後遺症
従来よりも安全性は増しましたが、手術による合併症として脊髄障害や脳障害が起こるリスクは否定できません。
生じるリスクがある後遺症としては次のようなものがあり、体の左右どちらかに生じる傾向にあります。
- 麻痺
手足を細かく動かしづらいといったくらいの軽症から、手足を動かせない重症まで個人差があります。
- 痺れなどの感覚麻痺
- めまい
- 腎不全
- 排便、排尿が難しくなる膀胱直腸障害