HbA1cとは?
HbA1cはヘモグロビン・エー・ワン・シーと読みます。ヘモグロビンとは血管の中を流れている赤血球の一部のタンパクで酸素を主に運ぶ役割があります。このヘモグロビンですが、血糖とくっつきやすい特徴があります。
この特徴を利用し、測定したものがHbA1cです。全体のヘモグロビンの中で、何%が血糖とくっついたかその値を調べます。そのためHbA1cは糖尿病の指標になる重要な数値になります。HbA1cについて調べられた多くの方は健康診断などで、HbA1cが異常値だった方かと思います。このHbA1cの基準値ですが、
正常値は、4.6-5.7%
境界型糖尿病が5.8-6.4%
糖尿病が疑われる値が6.5%以上となります。
HbA1cの一番の特徴が過去1、2か月間の血糖の状態を反映する値ということが挙げられます。赤血球の平均寿命が120日でその間にヘモグロビンが血糖と結合します。一度結合したらすぐには離れないため1,2か月という長い期間の血液内の血糖状態を判断することができるのです。
血管内に流れている糖分の値をみる血糖値は一日の中で、
- 食事
- 運動量
- ストレス
- 時間帯
等で一日の中でも乱高下する数値です。特に食事にかなり影響されるため
- 食べた量
- 食べた内容
- 食べた時間
で血糖値が変わることから
- 空腹時血糖(空腹時の状態)
- 随時血糖等(食後の状態)
と二つに分けて考える必要があります。一方でHbA1cは1,2か月の平均値を示す値のため一日の中で乱高下することはまずありません。そのため医師からすると、血糖値は食後も考慮しある程度異常値でも容認しますが、HbA1cは糖尿病の可能性が高くなるため容認することはできません。精査や治療を考慮する必要があります。
以上にて
- 前日食べ過ぎたから異常値だったのかな
- 基準値少しオーバーしている程度だから放っておこう
等安易に考えてHbA1c異常値なのを放置するのはぜひ辞めて、クリニックにまず受診するようにしてください。
糖尿病の診断基準について
HbA1cが6.5以上超えている人は糖尿病の可能性があります。ここでは細かい診断基準を示します。糖尿病の診断基準ですが、
- 朝の空腹時血糖値 126mg/dL以上
- 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 200mg/dL以上
- 時間関係なく測定した血糖値 200mg/dL以上
- HbA1c 6.5%以上
の4つが重要項目です。つまりHbA1cの他に実際の血糖値の値の二つで判断します。
①から③の血糖値が基準値を超えかつ④HbA1c 6.5を超えた場合、つまり血糖値とHbA1c両方とも基準値を超えた場合は糖尿病とその時点で判断します。
一方で、血糖値およびHbA1cどちらかしか超えていない場合は、1か月以内に再検査を推奨されています。再検査時に、
- 血糖値、HbA1c両方が基準値を超えた
- 血糖値のみ基準値を超えた
であれば、糖尿病と診断します。一方で再度HbA1cのみが超えた場合は、今度は期間を3から6か月空けて再検査するようなっております。
つまりガイドラインでは厳密にいうと、HbA1cだけでなく血糖値も1回は基準を超えて初めて糖尿病と診断するようにされています。ただし実臨床では柔軟に動くことが多いです。具体的には、
- HbA1cが6.5から6.9と6台の方は診断基準に照らし合わせて血糖値をみたうえで診断します
- HbA1cが7以上であれば多くの方が糖尿病の治療が必要になります。
- HbA1cが8以上の方はほぼ糖尿病治療が必須です。
- HbA1cが10以上の方は糖尿病治療を即時に開始して、治療に抵抗を示すようであれば総合病院でインスリン注射の導入を検討するレベルです。
このため、HbA1cが高い方は自分の結果をまず確認してみてください。HbA1c6.5以上であれば全員受診が望ましいですが、HbA1cが7を超えている方は糖尿病の治療を開始しなければならない可能性が高いため即来院するべき状況です。
HbA1C値が高いと疑われる糖尿病とその概要
ここまでHbA1cと糖尿病の関係性について記載しましたが、そもそも糖尿病が何か?分からないと受診する意欲が湧かないかもしれません。実際HbA1cが高い人の中にも症状がないから放置しようと考えている方もいるのではないでしょうか?
糖尿病とは血管内の糖分が過剰になっている状態です。本来糖分というのは、筋肉や臓器のエネルギー源として重要な物質です。特に脳はブドウ糖しかエネルギーとして利用できません。しかし現在の日本で栄養状態が悪く低血糖になってエネルギー不足の方はほとんどいません。むしろ、
- 食文化の欧米化
- コンビニやファミレスなどいつでも食べ物が調達できる環境
- デスクワークなどの労働量の低下による運動不足
などでエネルギーが過剰になっていることの方が多いです。そのため、あふれ出た血糖は腎臓を通過して尿から排出されていきます。つまり尿に糖分が出ているということは、血管内で糖分が過剰に存在しているという証拠になるのです。これが糖尿病と呼ばれる病態です。しかし尿から糖分が出ていることが何が問題なのか疑問に思う方もいるかもしれません。
糖分を出すために多尿や頻尿になる、また糖分を排出するために腎臓が傷つくことで、たんぱく質などのエネルギー源も尿から出ていくようになると、初期症状として
- 口渇→多飲
- 体重減少
- だるさや眠気など
- 体力低下
等の初期症状がありえます。さらにHbA1cが高い状態を放置しておくと体中の血管が傷つくことになります。とくに糖尿病の三大合併症と呼ばれる
- 糖尿病神経障害
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病腎症
の3つの重篤な症状が起こりえます。それぞれについて簡単に記載すると
糖尿病性神経障害は、細い神経が障害されて手足に痺れが出てくるのが初期症状です。さらに感覚が鈍感になり、血行不良などが加わると傷がついても気づかず放置するようになり、足などに潰瘍などできるようになります。あまりにもひどく壊死してしまった場合は最悪足を切断するなどの処置が必要になります。
糖尿病網膜症は目の障害です。網膜の血管は細く弱いので血糖値で簡単に障害されます。軽度であれば、視力低下、視界がぼやける程度ですが、それを放置すると血管が破れて出血してしまいます。網膜出血が続いてしまうと、網膜が剥離し最悪失明に至ります。
糖尿病腎症とは糖尿病が長期間続くことで腎臓の臓器自体が障害されてしまう病気です。腎臓とは必要な栄養物質を再取り込みして、いらない物質を外に出す、役割をしています。腎臓を通過するということは体のろ過装置を通過して血管を綺麗にするとイメージすると分かりやすいかもしれません。このろ過装置にごみとなる血糖が大量に加わり続けることで、ろ過装置が壊れて穴が開いてしまいます。腎臓が壊れてしまうと、まずろ過が上手くできなくなり体中がむくむようになり、血圧が上昇します。その状態が続くとさらに腎臓に負担をかけ老廃物が体中をめぐるという悪循環につながります。その結果腎臓が機能しなくなると最終的には一生人工透析をしなければなりません。
このように最初は軽度の症状の糖尿病の方もHbA1cが高い状態を維持し続けると、
- 足を切断
- 失明
- 透析
といった、元の生活に戻れない状態まで陥ることになります。
さらにHbA1cが10以上超えている方は『糖尿病性ケトアシドーシス』に注意する必要があります。
糖尿病性ケトアシドーシとは糖尿病の急性合併症です。本来は血糖はインスリンという血糖分解ホルモンにより低下します。しかし急激に高血糖状態になると、インスリンが分解しきれなくなり、インスリン不足で糖分が体にあふれかえってしまいます。こうなるとエネルギーを糖分から摂取することを体内が諦めて、脂肪をエネルギーに変えようと働きます。しかしこのとき出てくるケトン体は弱酸性で体にとって毒素になります。このような状態を糖尿病性ケトアシドーシスと呼びます。毒素が体中に回った症状としては
- 激しい口渇
- 多飲多尿
- 全身の倦怠感
- 消化器症状(嘔吐、腹痛)
- 浸透圧利尿による脱水症状
等が急激に起こります。さらにケトン体があふれ出ると意識がもうろうとして最終的には意識が無くなってしまいます。この状態になると最悪命の危険がある状態になるため非常に危ないです。治療としては総合病院でインスリン注射を持続して投与する必要があります。この糖尿病性ケトアシドーシスはHbA1cが6、7台の方はほぼ起きません。しかしHbA1cが10以上に急激に悪化している場合はケトアシドーシスが起こり得るため、ぜひ放置しないように気を付けましょう。
HbA1cが高い場合、一生治療をしなければならないのか?
HbA1cが高いのを放置している人の中には
- 糖尿病の治療が始まったら一生しなければならないのではないか?
- 糖尿病の注射は痛そうだからいやだ
等ネガティブな考えをもって、受診に消極的な方もいるかと思います。確かに糖尿病の治療を長期にわたり行う方は多いです。しかしHbA1cが高い人全員が一生しなければならないわけではありません。糖尿病の原因である、
- 食事
- 運動
を見直すことで、糖尿病が薬なしでもコントロールできる方もいます。また内服薬も近年目覚ましい進歩を遂げ、HbA1c 10,12代でも内服薬でコントロールできた方も中にはいます。さらに、注射薬も血糖値を直接下げるインスリン注射以外にも、GLP-1受容体作動薬といったインスリンを分解する酵素に働きかける注射薬も登場しております。このGLP-1受動態作動薬の注射薬の中には週に1回投与するだけで効果を発揮するものもあるため、注射に抵抗がある方も1週間に1度だけ我慢してもらって血糖値がコントロールできた方も多くいます。
尚、HbA1cの目標値ですが
- 糖正常化を目指す際の目標値→HbA1c6.0%未満
- 合併症予防のための目標値→HbA1c7.0%未満
- 治療強化が困難な際の目標(高齢者の方など)→HbA1c8.0%未満
となっています。そのため内服薬などでHbA1cが5台になってきたら糖尿病の薬を一度中止考慮しても良いかもしれません。ただしこのためには先ほど記載した食事と運動の見直しが必須です。内服薬や注射薬にも限界はありますので、ぜひ一度日常生活に関して見直していただければと思います。
HbA1C値が高いことで考えられる他の疾患
HbA1c値が高い大部分の原因は糖尿病ですが、糖尿病以外でも高くなる疾患があります。糖尿病以外で疑われる病気には、異常ヘモグロビン症、甲状腺機能亢進症、腎不全などが挙げられます。それぞれについてですが
異常ヘモグロビン症
遺伝的なヘモグロビンの異常です。最初に記載したようにHbA1cとはヘモグロビンと血糖がくっついた比をみています。つまりヘモグロビン自体に異常があるとうまく測定できない可能性があります。異常と言われるとどきっとするかもしれないですが、稀な疾患ですし、ほとんど症状がありません。
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌された場合、HbA1cが高値を示すことがあります。糖尿病事態ではないのですが甲状腺機能が亢進することで、脈が速くなる、動悸がする、体重が落ちる、疲れやすいなど色々の症状が起こりえます。そのため甲状腺機能亢進症の方は治療することが多いです。
腎不全
腎不全によって、ろ過が上手くいかずにHbA1cが実際の値より高くなることがあります。
一方で糖尿病自体でも先ほど記載したように腎不全が起こり得るため注意が必要です。そのため腎機能障害に関しては糖尿病の方は定期的に測定していく必要があります。
まとめ
HbA1cが高い方は症状がないから放っておいてよいわけでは全くありません。血糖値の値と合わせてしっかりと精査する必要があります。糖尿病で手遅れになった人を我々は多くみています。
- 片足が切断される
- 目が見えなくなる
- 透析に週3回通わなければならない
どれもつらい毎日ですし、ここまで症状が悪化してしまうと様々な合併症がおきてしまいます。せっかく健康診断などで糖尿病の可能性がある旨わかったのでぜひ放置せずクリニックを受診するようにしてください。