貧血とは?
貧血とは医学的にいうと血液中のヘモグロビンの量が正常値より少なくなった状態を言います。ヘモグロビンとは赤血球の中になる血色素で、人間の血が赤いのはこの色素によるものです。ヘモグロビンはたんぱく質の一種で、鉄からなるヘムとたんぱく質でできているグロビンで構成されています。このうちヘムは酸素と結びつく作用があり、酸素や二酸化炭素の運搬を担っています。ということは、貧血になると、酸素を運搬するヘモグロビンが減ってしまい、各臓器へ酸素提供が不足している状態になるということです。分かりやすく言うと体内の血液が足りなくなって酸素不足状態を貧血と言います。このヘモグロビンの目安ですが、
成人男性 | 13~14g/dL未満 |
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成人女性 | 12g/dL未満 |
80歳以上 | 11g/dL未満 |
妊娠中 | 10.5~11g/dL未満 |
となっています。なお女性の場合は月経の状況により数値が変動するため注意が必要です。女性は血液を失いやすいため貧血は身近な病気です。成人女性の20-25%の方が貧血ともいわれています。貧血の症状としては、全身臓器に酸素が行き渡らなくなるため様々な症状が起こりえます。代表的な症状としては
- めまい、ふらつき
- 息切れ
- 倦怠感(だるさ)
- 疲れやすくなる
- 味覚がおかしくなる
- 顔色が悪くなる
- 爪がもろくなる
- 口角炎・舌炎ができやすい
等の症状があります。これらの症状が出ている人は注意が必要です。家でも簡単にできるチェックとしては、充血しているはずの眼瞼結膜(目の下の部分)が蒼白になっているかどういか見ることで疑うことができます。しかし重症度含めて採血しないと確定診断はできないため病院で精査する必要があります。
貧血の原因について
貧血の原因で最も多い病気が鉄欠乏性貧血になります。先ほど記載したヘムの減量である鉄が足りなくなることで、血液が作れなくなります。材料が少ない中身体がなんとか赤血球を作ろうとして一つ一つの大きさが小さくなるのが特徴です。この鉄欠乏性貧血が、貧血の原因の7割を占めると言われています。特に若い女性の方の貧血はほとんど鉄欠乏性貧血のことが多いです。鉄分は一般的には1日15~20㎎を食事で摂取致します。そのうち1㎎くらいが体内に吸収され、一部はフェリチンとして鉄の貯蓄として蓄えられます。ただダイエットなどで栄養が不足すると鉄分摂取不足になります。また女性は1回の月経によって15~30㎎の鉄が失われるといわれています。出血量が多い方だと鉄が40㎎以上失われることもあります。このように鉄欠乏性貧血の原因としては、
- 鉄の摂取量不足
- 出血などによる鉄の喪失
のバランスが崩れたときに起こります。特に大きい要素が先ほどの月経になります。月経過多や出血量が多い方は、鉄が失われる量が多いため、貧血になりやすいです。鉄が欠乏した際に特徴的な症状としては、
- 異食症(氷や固いものなどを好むようになる)
- スプーン状のように爪が薄くなって沿ってくる(スプーン状爪)
- ムズムズ脚症候群
等があります。鉄欠乏性貧血の治療は鉄を補充することで徐々に改善していきます。一方で貧血の原因が全て鉄欠乏性貧血ではありません。
他には、
- 赤血球やヘモグロビンを鉄以外の材料不足で作れない
ビタミンB12不足、葉酸不足、(巨赤芽球性貧血・悪性貧血など) - 赤血球の源となる幹細胞の異常がある
再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、赤芽球癆など - 血液を作る臓器に障害がある
腎性貧血など - 慢性的な炎症により、赤血球が消費され続ける
各種癌、関節リウマチなどの自己免疫疾患、感染症など - 赤血球が出血で出て行ってしまう
消化管出血、外傷、女性の過多月経、痔核など - 赤血球やヘモグロビンが壊されてしまう
溶血性貧血、発作性夜間血色素尿症、肝硬変
などなど様々な原因が起こりえます。そのため貧血では鉄血欠乏性貧血が多い病気ではありますが、鉄欠乏性以外にも様々な原因がありえることに注意が必要です。特殊な病気の可能性や、癌など怖い病気が隠れている可能性もあります。そのため貧血を決して軽視しないことが大切です。
当院の貧血の診察について
貧血疑いで受診されるパターンは主に2種類かと思います。
- 健康診断でヘモグロビンや赤血球の値が低かった。
- めまいやふらつきなど症状がある。
まず大切なのが患者様が鉄欠乏性貧血の可能性があるかどうかです。
- 年齢(若年者かどうか)
- 性別(女性かどうか)
- 月経過多があるかどうか
- 食事が不規則であるか
等です。特に若い女性の患者様はまず最初に鉄欠乏性貧血を疑う場合が多いです。一方で男性の場合や高齢者の場合は注意が必要です。鉄欠乏性以外の病気の可能性を考慮します。
当院では貧血に必要な赤血球、ヘモグロビンの数値を迅速に採血後10-20分程度で結果を出すことができます。その他にも
- 白血球(ばい菌と戦う細胞)
- 血小板(かさぶたの元)
等も一緒に採血します。ヘモグロビンだけが下がっているか、血液内の他の成分も下がっているかで、疑う疾患が変わってきます。鉄欠乏性貧血では、赤血球、ヘモグロビンのみが低下することが多いので、白血球や血小板が下がっていたり、逆に上昇している場合は他の疾患の可能性も考慮します。健康診断で貧血と診断された方も日数が経過しているのであればぜひ採血で再検査をお勧めします。特に健康診断の時に月経の周期が被った方は、生理時のみ一過性に低下した可能性があるからです。それ以外の方でも前回の採血と比較して、
- 急激に低下している→緊急性が高いため場合によっては総合病院受診を考慮することもあります
- 上昇している→一過性の可能性があるため治療の必要がないかもしれません
等ヘモグロビンの数値の変化でも治療方針が変わるためぜひ採血による精査を、貧血が疑われる方はお願いしております。
次にヘモグロビンが低下している方は原因が何かを赤血球の大きさと(MCV)ヘモグロビンの濃さ(MCHC)で病態を確認します。このMCVとMCHCもヘモグロビンと合わせて当院では当日に結果を一緒にお話しさせていただきます。 まずMCVですが、
- 小球性貧血(MCVが80以下)
赤血球のサイズが通常よりより小さい状態です。赤血球をつくる鉄が不足することで起きることが多いです。 - 正球性貧血(80<MCV<100)
赤血球の大きさは正常ですが、全体量が不足している状態です。出血などで失われたり、用血など正常な赤血球が壊される病気が隠れている可能性があります。 - 大球性貧血(MCV>100)
赤血球のサイズが性状より大きい状態です。葉酸やビタミンB12の不足でDNA合成が上手くいかない悪性貧血や巨赤芽球性貧血の可能性が多いです。
次にMCHCですが、
- 低色素性貧血(MCHC30以下)
赤血球の大きさに対してヘモグロビン重量が少ない状態です。小球性貧血のように材料の鉄が不足してヘムが作られないことが多いです。 - 正式素性貧血(30<MCHC<35)
赤血球のヘモグロビン濃度が正常な状態です。他の病気の精査が必要になります。
当院ではヘモグロビンと同時にこのMCV、MCHCも一緒に結果をお出しして鉄欠乏性貧血かそれ以外かの判断を行っていきます。
尚MCV、MCHCも判断材料にはなりますが、確定診断には至りません。そのため検査会社に依頼して詳細な項目を一緒に採血致します。当院では何度も採血して患者様のご負担にならないように一緒に精査することが一般的です。まず一番可能性が高いのが鉄欠乏性貧血のため鉄欠乏性貧血かどうか精査致します。具体的には、
血清鉄
血清鉄とは、実際血液に含まれている鉄の値です。鉄欠乏性貧血では当然低くなることが多いです。当院では55以下を鉄不足とみています。一方で鉄欠乏性貧血以外にも血清鉄は判断材料になります。例えば、血清鉄が増加している場合は、鉄が赤血球に変換できない利用障害がおき貧血になっていることが予想されます。病態として再生不良性貧血や悪性貧血などが考えられます。
血清フェリチン値
フェリチンとは体内の貯蔵鉄の量を表しています。見た目のヘモグロビンや血清鉄が正常でもこのフェリチンが低いとすぐに鉄が枯渇して鉄欠乏性貧血になってしまいます。そのため鉄欠乏性貧血の診断に最も重要な数値と言えます。12以下であればフェリチン低値と判断し、鉄欠乏性貧血の診断に至ります。一方でフェリチンも炎症疾患があると鉄から過剰に産生される特徴があります。癌や感染症で貧血になっている方はフェリチンが上昇していることが多いため先ほどの血清鉄と同様に他疾患の鑑別にも使用します。
不飽和鉄結合能(UIBC)
血清鉄は、トランスフェリンと呼ばれるたんぱく質とくっついて存在しています。このトランスフェリンと結合している鉄(血清鉄)とトランスフェリンと結合していない鉄(不飽和鉄結合能)の結合能をみることで鉄の代謝をみています。鉄欠乏性の場合は結合して結成鉄をあげようと能力が上がることからUIBCが上昇します。
網赤血球数
網赤血球とは赤血球になる直前の赤ちゃんの状態をみています。網赤血球が多い状態は赤血球が壊されたり、溶けたりすることで消費が激しいため沢山骨髄から作られている状態を表します。一方で低い場合は骨髄などの造血機能の異常が起こっている可能性があります。
これらの数値とともに、
- 肝臓や腎臓はじめとした臓器障害ないか
- 感染症の炎症などないか
- 栄養状態はどうか
一緒に採血することが多いです。一方で一回の採血で貧血の可能性がある病気を全て調べてしまうと金額にご負担にあるため、当院では可能性の高い疾患鉄欠乏性貧血を中心にまず調べることが多いです。そのうえで必要であれば、ビタミンB12や葉酸など追加項目は患者様に必要性を説明したうえで後日精査致します。
また先ほど記載したように男性の方や高齢者の場合は鉄欠乏性貧血以外の可能性を考慮します。可能性として消化管の出血が疑われることがあります。当院では消化管から出血していないかどうか便潜血といって便を取ることで調べることができます。『貧血なのになんで、便なんかとるんだ!』と思われるかもしれませんが、貧血は消化管出血はじめとして様々な疾患を鑑別する必要がある病態です。その他
- 子宮内膜症や子宮筋腫などが疑われる場合は、産婦人科へ
- 消化管出血が実際に疑われる場合は胃カメラや大腸カメラができる消化器内科へ
- 血尿などが続く場合は泌尿器科へ
と他の科と連携して治療にあたることもあります。また採血結果から
- 緊急性が高い
- 重篤な病気や特殊な病気が疑われる
場合は横浜労災病院、関東労災病院、井田病院等血液内科がある総合病院へご紹介いたします。
当院の貧血の治療に関して
当院で治療する主な貧血は一番多くて身近な鉄欠乏性貧血が多いです。鉄欠乏性貧血の治療の第一選択肢は鉄剤を内服することです。
- フェロミア
- フェロ–グラデュメット
といった内服薬が一般的です。一方で、鉄剤は飲んだことがある方ならわかるかもしれませんが、副作用として胃のむかむかや嘔気、便が黒色になるなどの症状があって飲めない方もいます。錠剤がダメな方は、
- インクレミンシロップ
といったシロップに変更することで内服することができます。それでもダメな方は当院では漢方の選択肢もご用意しています。錠剤だけではないので、以前錠剤でダメだった方もぜひ受診してみてください。鉄剤の内服で、改善したかどうかは、定期的に採血でみていく必要があります。当院では、前述したようにヘモグロビン、赤血球が院内で結果を出せることから採血日に結果も説明することができます。一方で大切なのが、見た目のヘモグロビンや赤血球の上昇だけではなく、鉄の貯蓄であるフェリチンが上昇しているかどうかです。このフェリチンが低値のままですと、鉄剤の内服を辞めたらすぐに鉄が枯渇して貧血が再度起こってしまいます。そのためしっかりと鉄が補充できているかどうかはフェリチンの値をみながら治療していくことになります。鉄剤投与でも回復が悪い方は、他の疾患の合併も考慮する必要があります。先ほど記載したように、消化管や産婦人科の慢性的な出血がないか数値の上りが悪い人は精査する場合もあります。他の科や総合病院に受診すべきかどうかはその時の結果に応じて当院では柔軟に対応しようと考えております。
尚、貧血が改善した後鉄剤を飲み続けるかどうかは難しいところです。
- そのまま内服し続ける人
- 月経の時だけ合わせて飲む人
- 一度中止して様子をみる人
様々な人がいます。ただし鉄欠乏性貧血と診断された方にいえることが、鉄を多く含む食事および、吸収をよくする食事をとることです。補充が増えることで、鉄剤の内服をしなくても貧血を予防することができます。
鉄分を多く含む食品としては
- レバ-や赤身の肉類
- あさりやかきなどの貝類
- 血合いの多い魚
- 大豆製品
- 緑黄色野菜(ホウレンソウなど)
- 海藻
などに多く含まれています。またこれらばかりではなくバランスの良い食事をとることで吸収が良くなります。またバランスの良い食事と同時に
- 酢、柑橘類、梅干しなど酸味のあるもので胃酸の分泌を促進する
- ビタミンCの多い野菜、果物などと一緒に取ってることで鉄の吸収をアップさせる。
- ビタミンB12(レバ-、魚の血合い、納豆など)、葉酸(緑黄色野菜など)ビタミンB6(いわし、かれいなどの魚)、銅(貝類、ごまなど)など鉄以外の造血因子である栄養素を多くとる
等の工夫も効果的です。
まとめ
- 当院は迅速検査にてヘモグロビンを当日測定することで、貧血の有無及び重症度をすぐにお伝え出来ます。
- MCV,MCHCなどの数値で鉄欠乏性貧血が疑われるかどうかも当日すぐお伝えします。
- 当日結果が出るもの以外で貧血の項目に必要なものも一緒に採血することで患者様に複数回採血することを防ぐようにいたします。
- 鉄欠乏性貧血が疑われる方は鉄剤の錠剤、またそれ以外の選択肢もご準備しています。
- 貧血の原因が他にあるようであれば他の科にご紹介したり、さらには総合病院のご案内もご準備しています。
普段から健康診断で貧血指摘される方はいつものこととついつい後回しにしてしまう貧血ですが、可能性が高い鉄欠乏性貧血以外にも様々な疾患があるため油断はできません。まためまいや立ち眩みがひどくなってから鉄剤を補充してもすぐには回復しないため時間を要すようになります。当院では採血結果をすぐにお伝えすることで、患者様に治療が必要かどうかも含めてお話できるような環境設備を整えております。健康診断で指摘された方、症状が出始めた方ぜひお気軽に受診してみてください。